ニケ先生の思い出-4

「給料もらったら一万円を取っておいて、それを本を買うために使いなさい」

一万円という額は決して小さくはない。ましてや高校生にしてみれば、かなり大きなお金という印象があった。

 社会人になってから、実際にこの教えを実行できたことは恐らく無かった思う。

しかし、僕が今でも本好きになったのは、あの先生の影響が少なからずある。本屋や図書館は好きな場所のひとつだ。

ニケ先生の思い出-3

先生は大変な読書家で、事あるごとに本を読む事の大切さを教えて下さいました。

授業を始める前に、「読んで欲しい」本とその著者を黒板に書き、

「この本はねぇ、」

と、その本についての感想などを聞かせて下さいました。

高校生に向けてという事か、北杜夫の著書が特に多かったように思います。

「読んでみたなあ、」と思わせるような話しぶりで、忘れないように毎回ノートに書名をメモしたものです。

ある時こんな事を言われました。

「やがて君たちが働くようになったら、給料の中から一万円を本を買うために使いなさい。」

 

ニケ先生の思い出-3

「ニケタンマね、ニケタンマ。」

板書を途中で止めて、チョークを持った手をこめかみにを置き、じっと何かを考えていた。

前の方で生徒達の笑い声が聞こえる。

「あ、面白い?これね、先生の故郷(くに)の言葉でね、ちょっと待ってっていうのを、ニケタンマっていうんだよ。」

 

田中先生は、当時50代だったと思う。モジャモジャのくせ毛にズングリとした体型。

落語の家林家三平に似た風貌の、温かくて面白い先生だった。

先生の現代社会の授業は楽しかった。

「今日勉強するのはね、」

そう言って、カチカチと黒板にチョークを走らせる。

ー中東の原油が高騰すれば、日本の天ぷらそばが値上がりするのはなぜか。

と、毎回テーマを書くことから始まった。まるで、先生自身が授業を楽しんでいるようだ。

 

                               つづく