ピアノ屋 その2

 ある時、その人の部屋を見るとオモチャのような小さなキーボードがありました。

おや?と思い聞いて見ると。

「あ、これ?パチンコ屋でとって来たんだよ。ヒマな時に遊んでんだ。」

サラッと弾いてくれましたが、驚きましたね。おもちゃのピアノからクールなジャズが流れてきたんですから。

 

 その人は、もともと何とかいうジャズカルテットでピアノを弾いていました。酒場での仕事もしていました。当時、高級なお店では、お客さんは生のピアノをバックに歌っていたそうです。いかに気持ちよく歌って頂くかが大切で、お客さんから

「えーと、北酒場ね。」

とリクエスを受けると、その「えーと」という声だけで、その人が一番歌いやすいであろうキー(音の高さ)を判断出来たそうです。

 

 スゴいなあ、じゃあピアニストだったんですね。と言うと

「ピアニスト?いやいや、そんな高級なものじゃないよ。俺はピアノ弾かないとメシが食えなから弾いてただけだよ。そういう連中の事は業界でピアノ屋っていうんだ。だから俺はピアノ屋だよ。」

そう言って笑っていました。

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